3.「地域で生きるを支える」理想郷
今回の取材の中で、高橋PTから利用者さんとの素敵なエピソードをたくさん教えて頂きました。ここで、一部、ご紹介させて頂きます。
⭐︎90代のお花の先生。リハビリを実施する中で目標をたて、みごと達成された時にいったん「卒業」して頂きました。「ここまでよく頑張りましたね、これからはご自分で頑張ってみてね。でも何かあったときは、私たちがいるからね」と、手作りの卒業証書を授与。その時は、平澤さんも一緒に来て利用者さんに渡してくれました。利用者確保のためには、そのまま継続するという選択肢もあったはず。でも90代とはいえ、その人の持てる能力を引き出し、卒業という発想を思いついた平澤さんはさすがだと思った
⭐︎退院調整で顔を合わせたガン末期の男性は「家に帰ってお風呂に入りたい」と。これを聞いた平澤さんは「帰ったらすぐ風呂用意しとくべしね!」と約束し、自分も同行してお風呂介助に入らせてもらった。すごく気持ちよさそうにいい表情をされ、平澤さんも「本当に家でお風呂に入って気持ちいいべ~、あ~いがった、いがった」と声をかけていた。数日後、お亡くなりになり最期の挨拶をしに伺ったとき、その時も平澤さんが「綺麗になってよがったな」と声をかけていた。その時、こんなに素晴らしい仕事があるだろうか⁈と衝撃を受けた。リハビリだけでは味わえない場面だった
⭐︎ターミナル期でリハビリは中止となった利用者さんにも、時間がある限り訪問看護師と一緒に訪問して、利用者さんに声をかけたり、手をつないだり足をさすることができた。平澤さんのもとでは、そういう関わり方も受け入れてもらえる
平澤さん「うちの施設に来ると食べられるようになったり、余命より長く過ごせる人が多くてすごく感謝されます。事業化は楽ではないけど、こんな風に感謝されたり、利用者さんの幸せそうな顔を見ると、頑張って良かったなと思います。」
利用者さんの笑顔が、平澤さんの活力!
こういう経験が積み重なり、さらに「もっといいケアを提供したい」と、平澤さんの看護観は深まり、ゆるぎないものとなったのでしょうね。
地域で期待される訪問看護師になるために
今回の取材は、訪問看護師を中心として、医師、市役所の職員、理学療法士といった多職種にインタビューをさせていただきました。
大変貴重な機会でしたので、「多職種からみて頼りになる、連携しやすい訪問看護師とは?」と伺ってみました。
在宅を支える仲間として、訪問看護師に期待を寄せる澤田先生。
佐々木さん「連携しやすい訪問看護師の共通点と言えば、これは行政、これは施設、これはどこで、と押し付けるのではなく、この人のためにどうすれば良いのか?何か手立てはないのか?と一緒に考えて、一緒に行動していくという気持ちがある人だと思います。問題提起だけをする方もいるけど、それではチームワークは築けないですよね。」
高橋PT「自分たちが主体ではなく、利用者さんとご家族があっての…という部分がブレない方でしょうか。」
澤田医師「例えば、平澤さんの特徴の一つは、かなりベテラン看護師ですが、わからないことは教えて欲しいと素直に行ってくるところ。独自の解釈や知ったかぶりをしないので、物事をしっかり理解したうえで話が出来るので、連携がしやすいということなのだと思います。」
そして、訪問看護師に期待することは、
澤田医師「PEACEプロジェクトで行くほとんどのところで、在宅をお願いしますという内容の講義をやっています。私は病院の外来もやって入院患者も診て、救急の対応もして訪問診療もやっているので経験上、訪問診療を導入するときには必ず訪問看護師さんを導入してくださいって頼んでいるんです。訪問看護師さんがいないと何も仕事できないですからね。」
佐々木さん「地域の課題を解決するために、医療(病院・主治医)との連携をとる立役者を担っていただきたい。平澤さんのような方がいると、百人力ですよ!訪問看護師さんにはそのように核となってほしいと思っています!」
日々真摯に利用者さんに向き合い、関わる人たちに対して適切に橋渡しをいている訪問看護師。そのひたむきな姿にたくさんの称賛の言葉を伝えると「そんなことないよ、私なんてまだまだよ」と。そんな謙虚さも連携のしやすさにつながっているのでしょう。
4.地域を見る目、諦めない精神の継承。バトンは職員へ…
さて、平澤さんが成しえた多事業所の開設と日ごろの活動について様々な方にインタビューしましたが、主軸である訪問看護ステーションに話を戻します。この約10年間、法人の発展を支えてきた平澤さんは、今、若い世代の育成にも力を注いでいるようです。
平澤さん「女性が多い職場なので、若い世代がこれから子育てと両立しながら働ける環境じゃないと先がないわけです。出産、子育て中の職員に、まずはパートで復帰して、あなたのタイミングで常勤に戻ればよいし、そのタイミングで主任やってみないか?と提案しました。そうやって復帰することで、ロールモデルになりなさいって言ったの。ここで働いていれば私のように訪問看護師としてもレベルアップできるっていうね。」
職員のライフイベントに合わせた働き方を提案し、働き続けられる環境を整えています。
また、訪問看護をするにあたって「地域を見る目」をどう育成しているのか?ついて尋ねると、
看護師と経営者という2つの顔を持つけれど、感情はきっちり分かれている平澤さん。
平澤さん「社長が何してるかわかんないって、よく言われるんだよね。訪問も行かず当番もしないで何しているんですか?って。
散々働いてんのにね(笑)それは私が悪い。やっぱり伝えなきゃと思った。自分が何を目的にどこに行き何をしているか具体的に伝えることで地域とのつながりが理解でき、少しずつでも地域を見る意識が芽生えてくれることを期待しています。」
なるほど。この他にも、
高橋PT「平澤は、今度こういうところで訪問看護の紹介するんだけど誰か行って、とか、転倒予防教室をやるから講師に行ってとか、「自分はこっちをやるから、後は任せたぞ!」って言うんですよね(笑)。そうやって人脈を繋いで、地域と関われる場を作ってくれている。」
人前で話すことが上手な若い職員にパワポの作り方を教えて、花巻市の中学・高校生向けのお仕事セミナーに送り出したことも。初めてのことで緊張していても「大丈夫、大丈夫。いつもどおり!看護の仕事は楽しいっていつも言って仕事をしてるんだから、その楽しさをぶちまけきて!」と、まずはなんでもやってみることが大事とも伝えているそうです。
平澤さん「スタッフはいつか育つと信じて接しています。その育つスピードを上げることが自分の仕事だと思っています。」
そう語ってくださった平澤さん、最後にこんな言葉を残してくださいました。
平澤さん「仕事が一番では絶対にダメ。だから面接ではまず家族のことを聞きます。受験とか介護の話とか。犬や猫が亡くなった時は大量にお花を買って届けます。経営者は従業員とその家族を養っていることを自覚しなくちゃ。利用者のことを考えるのはスタッフの役割であり、スタッフのことを考えるのは経営者の役割。だから私は、スタッフの幸せしか考えてないです。」
そして、開設当初からともに走ってきた高橋PTさんは、
高橋PT「平澤は、毎日忙しいのにスタッフの話を良く聞いてくれるんですよ。家族のこととか自分のメンタルのことを、本当に細やかに気にかけてくれるので、ありがたいと思っています。利用者さんに対しては、自分の考えを押し付けちゃダメ。迷ったときはその利用者さんが何をしたいのか振り返りなさい、聞きなさい」利用者が一番、利用者さんとご家族が何をしたいかが大事、と教えられてきました。」
まるで平澤さんの自宅に遊びに来たかのような、リラックスムード漂う看多機です。ご利用者さんも働く人も表情が良い!!!
これだけではなく、高橋PTの言葉からは「これも平澤の教えです」というフレーズが、たびたび出てきました。
脈々と受け継がれている平澤イズム。そして、訪問看護ステーション職員皆さんのこの笑顔。これがくくる花巻が地域最強であることの証!でした!!
今日イチ。とびっきりの笑顔で「ハイ、チーズ!」一日訪問に行って帰って来てミーティングした後でも、この笑顔♡職種も先輩後輩も関係なく、会話の内容は利用者さんのことでもちきりでした。
多職種が上手く連携するために訪問看護師に求められていることは、つなぐ力。利用者さんの状態だけに留まらず、地域にも目を向けて現状を肌で感じることができる訪問看護師だからこそ、地域を変える可能性を秘めています。即効性を求めるだけが全てではありません。池に小石を投げると、一つまた一つと小さな波の輪が広がり、最後は池全体に静かな波が伝わって行く様子を波紋と言いますが、1人の訪問看護師によるちょっとした気づきや発想、ほんの少しの小さな行動が次第に職員に、地域に影響する。
平澤さんへの取材を通じて、訪問看護師の日々の行動が波紋のように感じられ、訪問看護師の持つチカラや可能性を一層感じることができました。
平澤さんが次々と事業展開したそのきっかけは、「依頼を断りたくない」という、いたってシンプルな思いでした。目の前の現状をシンプルに、素直に受け止め、見つけた課題に対して真摯に向き合い困っている人を待たせず、あれこれ考えるよりもまず動く。そして、実現できるまで、絶対に諦めない!個々のケアにも、事業所の運営にも、地域への課題にもPDCAサイクルを繰り返すことで、地域で生きるを支える「くくる花巻」ができました。土地と共に生きた宮沢賢治と同じように、その土地に根差し、その土地で生きるを支える「くくる花巻」。「くくる花巻」は、イーハトーブ*(理想郷)のようでした。
※イーハトーブ(花巻市出身の童話作家、宮沢賢治による造語。賢治の心の奥に刻まれている理想郷を指す言葉と言われています)
提供:一般社団法人花巻観光協会
花巻駅近くにある壁画「未来都市銀河地球鉄道」。日が落ちると、銀河鉄道の夜を彷彿とさせる、幻想的な絵が光り輝きます。
スペシャルサンクス1:インタビューにご協力頂いた皆さま
澤田 正志 医師(公益財団法人 花巻総合病院 副院長)
平澤さんが花巻総合病院の訪問看護ステーションに所属していた時からの、大変貴重な理解者。
日本緩和医療学会でEPEC-Oを受講し、PEACEプロジェクト移行時に最初の指導者講習会を受講されました。岩手県内のPEACEプロジェクトは初期から携わっていらっしゃる医師です。現在は病院外来、入院患者の診察、手術、訪問診療をお1人でこなすスーパードクター。取材時は担当患者が60数名から100名超えになる⁈という状況でした。
こんなに超多忙を極める澤田医師ですが、訪問診療の患者さんのところでは患者さんの愛猫を抱っこしながら診察したり、時に、平澤宅の愛犬のケージに入って犬と戯れたり、心にゆとりを持った親しみあふれる素敵な医師です。
佐々木 徹 様(花巻市役所 健康福祉部健康づくり課 地域医療対策室次長)
取材中、始終和気あいあいとして、平澤さんと絶妙の掛け合いも見せてくださりました。もともとは石鳥谷町の職員で花巻市合併事務局へ出向されており、2018年に花巻市が4市町合併した際に花巻市の職員になりました。「事件(課題)は現場で起きている!」と言わんばかりに、必ず現場へ足を運びます。生の声を大事にし、問題は先送りにせず解決するのみ!
平澤さんに対して「アッツイ人、熱量がある人が好きなんですよ」とお話されましたが、「あなたもね」と平澤さんに返され、「オレもだな」と笑いあう姿がとても印象的でした。この先何かしてくれそうな⁈雰囲気を醸し出している、佐々木さんです。
高橋 智恵子 様(くくる花巻訪問看護ステーション 理学療法士)
「あら~!おしょうすーー!(恥ずかしいーー!)」と言いながらも、たくさんの笑顔と素敵なエピソードをお話してくださいました。高橋さんと一緒にいたら、なんでもできてしまいそうな気持になれる、そんな明るくてエネルギッシュな理学療法士さんです。高橋PTの固定概念にとらわれないリハビリは、その人の生きる活力を引き上げてくれるように見受けられました。遊び心もあって、心の底から利用者さんの気持ちにもご家族にもよりそう姿勢が、たくさんのエピソードから感じられました。ぜひ、全国でそのご活躍を発表していただきたいPTさんです!
スペシャルサンクス2:平澤さんを支える家族
平澤 裕司 様(一般社団法人 恵幸会 理事)
お祭りで出逢ったお二人の関係性は、多事業所の経営も互いを思いやり熱い思いを持ち続けるお二人です。平澤さんが思い切り事業のことに集中できるのは旦那さんの存在は欠かせないことが、お二人の様子から伝わってきました。高橋PT取材中、カメラを持った平澤理事が「逆取材に来ました~」と言って、取材する私たちを撮影してくださいました。
私たちの取材を温かく受け入れてくださり、心より感謝いたします!
平澤 王司くん(ゴールデンレトリバー 9才)
ご夫婦の関係性をより強めてくれるのは、ゴールデンレトリバーの王司くん。穏やかで優しい王司くんはご夫婦にとってのアイドルであり、癒しです。
平澤さんがお仕事をやりすぎると王司と一緒に居る時間がなくて可哀そうだと旦那さんがおっしゃるその姿は、奥様と王司を思いやる気持ちでいっぱいの表情で、こちらまでほっこりしました。王司くんは我々がお宅にお邪魔してもいい子で迎えてくれて、すっかり癒されました。