第1弾
医療機関が少なくても在宅看取り率が高い町
京都府与謝郡伊根町

医療機関が少なくても在宅看取り率が高い町、伊根町

伊根町の皆様を取材して見えてきたのは「コンパクトな町ゆえの多職種連携の強さ」と「地域に根付く共助の精神」この2つ。
これがやがて町民の意識改革につながり、在宅看取りの高い地域となったと思います。

一人も取りこぼさずに町民を見守る仕組み

約2000人の町民をほぼ全員を把握されているという訪問看護師の皆さん!実は町民の皆さんも「この人は看護師さん」と認識されているとのことで驚きです。
伊根町は、舟屋が連なる海側は人も多く人の目も行き届きそうですが、山側は細い山道を車で数分上ってようやく民家がポツリとある程度。すれ違う車もなければ、こんな山奥に本当に生活しているのかと思うほど。それでもここに住む人の情報をくまなくキャッチできるのは何故でしょう。
そこには伊根町の文化が強く関わっているようでした。
昔から「親方子方」という繋がりがあり、子方は何かあれば応援しに出向くという関係性が築かれているようです。それに自治会ごとの結束も強く、自治会ごとのお祭りや運動会も盛り上がる。加えて民生委員は自分の担当エリアをしっかりと見守るという意識が強かったり、親戚も友達も近くにいるので、日常的に気にかけてくれる人が近くにいるのですね。

藤原所長「ご近所付き合いは今もあるし、身体についての困りごとは地域包括や看護師へ、日常的なことなら民生委員に相談するというのは皆さんに根付いていますね」

「最近姿を見ないから心配なんだで」「なんとかしてほしいであんた相談にのってな」と周りの人から地域包括支援センターに声をかけてくるそうです。それに、伊根町では「共助」の文化も根付いているようです。何とか頑張って最後までここで生活しようという連帯感があって、食事の準備やゴミ出しをそれぞれ助け合って生活しているそうです。

共助の文化と近所の目が行き届いているからこそ、山奥でも独居でも安心して過ごせるのですね。
きっと梅崎保健師の全戸訪問や、町で声をかけられたときの看護師の言葉、老人クラブやサロン等によく顔を出している地域包括支援センター職員の日頃の行いから浸透したのだと思います。

梅崎さんと坂井さん

町民の声を大事にして町の政策につなげている梅崎さんと坂井さん

坂井さん「地域ケア個別会議は、事業所だけでなく、地域の人や民生委員、ケースによっては消防署の方や町に4つある駐在所のお巡りさんが入りますが活発な意見交換ができていつも盛り上がるんです。」

そこで出た課題について、企画案を考えるとのこと。ダイレクトに町民の声が活かされているから、町民のニーズにあった企画ができていることは納得です。

伊根町にはコンビニもスーパーもないことから、日々の食材調達には移動販売車の「とくし丸」や生協を利用している町民が多い様子。なんとこのとくし丸と生協は伊根町と「見守り協定」を結んでいるそうです。買い物で物を買いすぎているとか、同じものをしょっちゅう買うとか、毎回来るのに最近来ないのはどうしているのだろうと、気付いた時に地域包括支援センターに「この人が気になります」と連絡してもらうという協定があるそうです。なんと素晴らしいシステムでしょう!

一人も取りこぼさない取り組みとして、「災害時支援名簿」の作成にも表れています。基本的にケアマネジャーが名簿を作成していますが、訪問看護師がリストに上がっていない人について情報提供したり、訪問看護のご利用者で人工呼吸器や在宅酸素のリストも挙げて整理されているのは、町民の皆さんも安心されるでしょうね。
伊根町の文化に加えて専門職だけでなく、町の駐在所の警官、移動販売など、それぞれの役割を持つ人が誠実に役割を果たすことで、町民の皆さんを見守る網の目が細かくなっている。それが一人も取りこぼさず町民を守る仕組みになっていました。

移動販売

個別のリクエストも受け付ける移動販売は、たくさんの人が集まりにぎわっていました

未来に向かって種まき活動

小学校では年2回、中学校、高校では1年おきに出前授業を実施。成長した時に、少しでも記憶に残っていることを願って

石野先生の夢は、伊根町の皆さん全員が「これで良かった」と思える最期を迎えること、そして今の地域医療を継続させたいこと。後継者を育てるために2013年頃から高校に講演に行き、「地域医療はええよ。都会に出てもぜひ伊根町に帰ってきてね」と種まき活動をしているそうです。

新人訪問看護師の石井さんは、病棟看護師から伊根町に戻って来ました。訪問看護は一人で訪問するので不安を抱く人が多いですがその辺はどうだったのでしょう。

石井さん「患者さんを目の前にして、いつもと違うなとか、ちょっと変かなと思うのは病棟も在宅でも同じで、病棟ではすぐに医師や先輩に相談をしますが、それが診療所の先生やステーションの先輩に代わるだけなので、気負わなくても大丈夫だと思います。
大事なのは、わからないことは「これはどうなんですか」と聞くこと。観察するポイントもこれまでの経験が活かされるので、一人で訪問に行くからと気負う必要はないと思います」

石井さん

訪問看護を通して看護のやりがいを語る石井さん。
笑顔がキラキラ輝いています

そして、
石井さん「『看護って何だろう』と思う人こそ、訪問看護を経験してもらえると、私のように看護のやりがいを実感できると思います」

心強い言葉を頂きました。看護の本質は訪問看護にあると言っても過言ではないことが伝わりました。

そんな石井さんの夢は、
石井さん「味方だと思ってもらえるような訪問看護です。心を開いてもらえなければ本当の気持ちがわからないので、もう一人の母さんのように何でも頼ってもらえるような、先輩方のような看護師を目指したいです」
 
伊根町の根底にあるのは、伊根町の文化である「共助」であり「地域への愛情」であったことが今回のルポで伝わりました。
サービスが少ない中での地域医療の取り組みは、地域包括ケアシステムのあるべき姿が見えた気がします。
素敵な地域医療がこのままずっと継続してほしいと心から思いました。

伊根町の風景

虹がかかる伊根町の風景。この写真は石野先生よりいただきました。

伊根町の風景

虹がかかる伊根町の風景。この写真は石野先生よりいただきました。

スペシャルサンクス

森田課長

森田課長

伊根町で生まれ育った森田課長は、人柄の良さがにじみ出るような表情の課長さん。初めてのルポで緊張している私たちでしたが、森田課長の笑顔で一気に心が和みました。「町民皆さんの幸せを心から願っているのはみんな一緒なので、良いと思った企画は柔軟に対応するように心がけています」
この柔軟性が、他の地域にはない、伊根町独自の取り組みが進んでいるのだと思いました。今回、訪問看護ステーションの藤原所長さんだけではなく、たくさんの方に取材させていただけたのは森田課長さんのお陰ですので、感謝の気持ちでいっぱいです。

とくし丸(水口ご夫妻)

とくし丸(水口ご夫妻)

「とく とく とーく とくし丸 野菜にお肉お味噌に雑貨 笑顔もいかが~ 移動スーパーとくし丸♬」軽快な音楽が聞こえたら、みんな集まれ!スーパーもコンビニもない伊根町には欠かせない移動販売。
お買い物する中で「今日は誰々が来てないから、ちょっと声かけに行ってみるわ」とお客さん同士で見守り機能もある様子。水口さんは、地域の皆さんにどう貢献できるか、どうやったら喜んでもらえるかといつも考えているとのことです。伊根町に幸せと笑顔と安心を運んでくれるとくし丸、大活躍です!

伊根タクシー(上野さん、濱中さん)

伊根タクシー(上野さん、濱中さん)

鉄道は通っておらず、路線バスの運行は1時間に1本の伊根町では、町民の足となっているのが「いねタク」(伊根町予約型乗合交通)。
私たちの滞在中も、大変お世話になりました。ドライバーの濱中さんも上野さんも、生まれ育ったこの町に貢献したいという共助の思いにあふれていらっしゃいます。上野さんとお父様は、伊根町訪問看護ステーションのご利用者さん。
「看護師さんは先を予測してアドバイスしてくれるので、ホンマ、むちゃくちゃ助かってます。」

伊根町ネットワーク回覧板いねばん

伊根町ネットワーク回覧板「いねばん」

ネットワークタブレット回覧板、通称「いねばん」は伊根町内の全ての世帯にタブレット端末を無償貸与!ワクチン情報や防災情報、いねタクの予約など、伊根町の日々の暮らし情報を配信しています。音声でも確認できることから高齢者は音を流しっぱなしで情報をキャッチ。伊根漁港からの連絡も連日入るので、アナウンスを聞いてから漁港に魚を買いに行く様子は漁業の町ならではですね。
いねばんには、脳トレや体操も流してくれるので活用している高齢者もたくさんいる様子。へき地とは言え、タブレットを全戸に配り、情報を配信するとは、最先端の取り組みだと感動しました。

裳香庵(今井さん)

裳香庵(今井さん)

今回のルポでお世話になった宿の「裳香庵」さん。伊根町には食事つきの宿がなかなかなく、困り果てている時に観光協会の方からご紹介いただきました。予約の段階から「いい取材ができるようにサポートさせてもらいます」と温かい言葉をかけてくださった女将の今井さん。伊根町役場から宿までの交通機関がないことから、毎日送迎をしてくださいました。
伊根町は日本三大鰤漁場の一つということで、一緒に伊根漁港に連れて行ってくださったり、そこで買った新鮮なお魚を毎食いただきました。女将さんの愛情たっぷりの手作り料理はどれも美味で、連日、最高のおもてなしを頂戴しました。今回のルポが成功したのも女将さんのお陰と言っても過言ではありません。伊根町にお出かけの際はお勧めの宿です。